一体何時間そうしていたのだろう。
背中しか見えないその姿。
佇むルークの足元は一面の雪で、足跡が見つからない。
ずっと、舞い落ちる雪を見ていたのだろうか。
まるで一枚の風景画のように、ルークが雪景色に溶け込んでいる。
ケテルブルクは寒い。
だからここに来るとルークには必ず真紅のコートを着せている。
それはルークが数多の魔獣を、魔物を、そして、人を殺めて来た称号。
貶めたモノ達の血で染め上げたかのようなその真紅のコートは、今は血に染まった手を、体を寒さから守る為に役立っている。
「皮肉、ですね……」
これから幾度となくここを訪れる度に、あのルークの姿を見る度に、私はこの思いに囚われるのだろう。
己に迷惑をかける存在は、ことごとく排除してきた。
しかし、どんなに係わり合いになりたくないと思っても、あの無知な子供と共に行動しないわけには行かない。
無知であることの罪を知ったならば、認めなければならない。
それが出来ず、あまつ癇癪を起こし周りに当り散らす。
幼いからといって許されることではない。
いっそ無関心になれたら。
それすら出来ない憤りをあの子供に覚えた。
悔い改めると、真摯な瞳を向けた。
どうでもいいと思った。
ただ、私に迷惑を掛けさえしなければ。
旅は順調に続いている。
昔のように、我侭を言うわけでもない。
ただ大人しく、笑っている。
いつだったか、ティアとナタリアが話しているのが聞こえてきたことがある。
痛ましい笑顔を見てると心が締め付けられるようだ、と。
疑心に満ちたこの心には、あの無理をした、泣きそうな笑顔すら、子供特有のかまって欲しいという感情の表れに見える。
浅ましい。
と、思った。
益々、子供が嫌いになった。
そんな大嫌いな子供が、ただずっと雪空を見上げている。
やはり、子供の考える事は理解できない。
ホテルのラウンジ、ただふと目に付いた外の景色。
暗い空、真っ白な雪、赤い点。
子供と同じように空を仰げばただ灰色の雲間から雪が落ちてくるだけ。
「何が楽しいのか、理解に苦しみますね」
自室に下がろうとしたその時、微動だにしなかったルークが、後ろを振り返る。
消えた足跡でも探しているのだろうか。
そして唐突に、
顔を手で覆い、膝から崩れ落ちた。
だから、どうしたと言うことも無い。
そのはずなのに、胸にざわりと何かが這った。
これはまるで歓喜。
どうしようもない醜悪な感情に自然と頬が緩んだ。
もっと苦しめばいい、泣き喚きたくなる感情をその胸に押し殺し、もっと、もっと……
「……わ、たし…は……」
おぞましい。
こんなにもおぞましい感情を己が持ち合わせているとは。
良くも悪くも、様々な感情を、この年まで知りもしなかった感情を私に与えてくれる。
歓喜と嫌悪が入り混じる胸に手を当てる。
「……貴方に、興味が沸きましたよ。ルーク」
そして私は自室に下がった。
隣の部屋はガイだったか、ティアやアニスが騒ぎ立てる声が聞こえる。
大方、何時間も雪の中に居たのを怒られているのだろう。
そして、見放されやしないかと、怯え、謝るのだろう。
小さな、小さな子供が、一つしか知らないその世界から、放り出されないようにと必死で食らいつく。
その幼い胸に多くの感情を押し殺して、何も無い場所で泣く。
あぁ、初めてだ。
あの子を愛おしいと感じたのは。
そしてまた、ケテルブルクに雪が降る。
赤い滲みも、歩んできた軌跡も、何もかも消し去って
その世界の白さに絶望しても
その絶望さえこの雪は覆い尽くして。
好きなんですよ、雪景色。とベルセルクの衣装。
ただ、白い世界に落ちた一滴。
美しいだけ、他に何も無い世界。
むろん音すらも。
そういうのが大好きです。
ついでに、ジェイドがルークに偏愛するのもいいかなって……
書いたらちょっとキモチワルイことになりましたが。
えっと、本当に書きたかったのは、崩れ落ちるルーク(なぜ崩れ落ちるに至ったか、ルークサイドの表現はあえてしたくない)と
それをただ一人目撃してしまうジェイド、と胸のうちを酷く渦巻く感情。
だったんですけどねー(゚∀゚)アヒャッヒャッヒャッヒャ

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