それでも望みを捨てることが出来ない。
私の世界は彼によって成り立っていたというのに。
ならば彼の居ないこの世界に何の意味があるというのだろう。
「何故……」
「知識を得る為。そして得た知識に見合う力を手に入れる為。」
膝を付く第四音素。
「何故我等を……」
「幾千年の時を大気として流れ、オールドラント隅々まで行き渡った音素。」
既に体を貫いている槍を、より強く、第四音素に突き刺す。
「その音素を集結させ、意識体にすることにより、情報を統合させる。」
第四音素が低い悲鳴を上げる。
「そしてその集合体を吸収することにより、情報と、その力が私のものになる。」
「何がお前を…そこまで……。」
「抗えなかった運命が、でしょうか?」
莫大な量の音素を集結させる。
あの男がその理論を考え着いた時には、ゾクリとしたものです。
あまりにも高等な理論なので、それを実行に移す為の実験が、どれほど大変であったでしょう。
まぁ、それもこの天才ディスト様にかかればお手の物でしたが。
「行きましょう。」
これで、第六音素までの音素集合体を吸収してしまったわけですか。
既に人ではなく、記憶の中の友でもなくなったこの男に、なぜ私は着いて行くのか。
知的興味、いいえ。
狂気へと落ちていくかつての友を、止めることが出来なかったから。
だったら、いっそのこと早く終わらせたい。
私の力が、まだ役に立つと言うのなら、ついて行き、終焉まで見届けたい。
「どうかしましたか?」
鮮血のように赤々とした眼はそこにはない。
赤黒く、より闇色へと変色した眼。
「何でもありませんよ。後はローレライだけですか?」
全ての音素集合体を吸収し切って、何が、何か変わるのでしょうか。
何も変わらなかった時、貴方は何をするのですか?
集合体を吸収するということは、オールドラントの音素が激減すること。
この作業が終わった時、本当に世界が終焉を迎えてしまうかもしれませんね。
「第七音素は後回しです。」
「何故です?」
「何か、今までに感じたことの無い音素の気配を感じます。」
新たな音素が在るということ?
「それの正体を突き止めてあわよくば吸収、ということですか。」
「えぇ、役に立つ音素ならいいのですが。」
「場所は?感じるのでしょう?」
はじめは色々な場所に赴き、少しずつ音素を集め、結晶化させていた作業も、集合体を吸収すればするほど、音素に敏感になったこの男の導きでペースは上がるばかり。
まぁ、私も既に人とは呼べない体になっているので疲れることはありませんが。
「貴方は、着いて来れないと思います。」
「何故!?」
男が地面を指差す。
「地核です。まぁ、どうしても着いてきたいのでしたら、一度音素乖離させた後に再構築してあげてもかまいませんが。」
怖いことをさらりと言う。
「きちんと魂がついてきてくれないと、再構築した時に死体が転がることになりますがね。どうします?」
「つつつ…ついていきますよ!」
「おや、面倒な作業が増えてしまいました。」
面倒で悪かったですね!面倒で!
「どのみち私がいないと、その新しい音素の結晶化できないじゃありませんか!」
今の私は例えるならローレライの剣。
私自体が、音素集結装置。
それをなす為に、私は私を構築する元素を捨てざるを得ませんでした。
レプリカとも呼べはしないんですけどね。
「それもそうです。ふむ、まぁ行きましょうか。」
全ての音素を取り込んで
それでも彼を取り戻す手段がないとすれば
本当にこの世界を壊してしまおうか
得るものが一つとしてなければ
ディストの口調って特徴的だと思ってたけど、案外ジェイドと被っててやり辛い。
つうか、音素吸収って、何者ですかここのジェイドは。
あんたもう眼鏡必要ないだろ。

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