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狂い咲き


グランコクマから徒歩で探索をしている時だった。
森を抜け、広がった草原に一本だけ木が生えていた。
「うっわぁー!すっげぇきれぇ!!」
走り出したルークに単独行動しないように、と言いながらついていくティア。
その二人の様子に苦笑いしながらやはり走ってついて行くガイ。
ナタリアとアニスは、イオン様と共にその木を見上げながら微笑み合い、彼らのそばに歩いて行く。
ゆっくりと、私もまた。
木の下まで着いた時には、ルークに遅いと怒られた。
早くに行かなければならないとは言われていないのだから怒られる筋合いはないのだが、7歳児に何を言っても無駄だろう。
「いやぁ、すいませんね。年なもので」
「まったくそうは見えねーけどな!」などと言いながらむくれ顔になる。
アクゼリュス前後、あれほど嫌気が刺したルークの言動も、今では苦笑いで済むくらいに受け止められる自分がいる。
まぁ、今の言葉など、褒められているようにしか取れないのだが。
実際このパーティーで最年長35歳ともなれば浮いて見えてもいいようなもの。
しかし、14歳前後に見える2歳児と17歳前後に見える7歳児がいるパーティーで外見年齢のことを言っても意味は無い。
いつの間にか花見をすると言う話になっていたらしく、アニスが腕まくりをしてる。
各地の崩落が始まり、降下作戦の真っ只中、ゆっくりする暇はないというのに。
本来ならばこの場所から南にはチーグルの森があったはず。それも今は魔界に堕ちている。
「綺麗だなー。なんて名前なんだろう?」
惚けた顔で満開に咲き誇る木を見上げるルーク。
誰もが、知っているはずの木をルークは知らない。
「チレジオ、ですよ」
ルークが、私が教えた木の名前を反芻する。
「春になると咲く花です。グランコクマにはチレジオ回廊と言われる並木道がありますよ」
「ずらーってこの木が並んでるんだろ?綺麗だろうなぁー」
想像し、目を輝かせるルーク。崩落が迫り、不安に包まれたこの世界であっても、ルークには美しい世界としてその目に映っているのだろう。
「そうですね、一面が淡い桃色で。綺麗だと思いますよ」
何度かその時期に通ったことはあっても、今みたいにゆっくりと花を眺めることなど、ましてや目を奪われることなどなかった。
「へー!見てみたいなぁ……」
「全てが終わって、春になったらいくらでも見れますよ」
楽しみだな、と笑うルーク。あぁ、これが本来の彼なんだと思う。
最近のルークは何か焦っているように、生き急いでいるように見えて。
それもそうか。師と仰ぐ者に捨てられ、自身の無知故にアクゼリュスを崩落させ、そして自分という存在を否定している。
そんな彼が、嬉しそうに笑っている。久しく見ていなかった気がするその微笑。
奪ったのは私達自身か。
「その時は、案内してあげましょう。都内の奥まった場所にありますからね」
「うわー、なんかジェイドが優しい……」
珍しいものでも見たかのように、びっくり顔をされる。
「失礼ですね、私はいつでも優しいじゃありませんか。」
にっこりと笑えば、眉を顰められて。
たまにはこういう時間もいいのかもしれない。と、ふと思った。
「ルーク!大佐!ご飯出来たよー!」
アニスの呼び掛けに勇んで駆け出すルーク。花より団子、という言葉も後で教えてあげましょうかね。

食事を終え、一息ついているとルークが近づいてきた。
「なぁなぁジェイド、なんで今春じゃないのに花咲いてるんだ?」
人にモノを教えるのは好きじゃないと言っておいたはずなのに、ここ最近のルークは何か疑問があればそれを全て私に聞いてくる。
知識を得ようとするようになったのだから、それは良い事だ。無下にも出来ない。
「時たま、こういった現象が起こることもあります。温度や日長、栄養の状態によってこうやって時期外れに咲いてしまう場合もあるんですよ」
「へー……。教えてくれてありがとうな、ジェイド!そういや、もうそろそろ出発だってさ」
「わかりました。」
私は立ち上がり、集まり始めた皆の元へ歩き出した。
ふと振り返れば、ルークがチレジオの木を見つめてる。
「お前、一人で頑張ってるんだな……」
洩れ聞こえた声に聞かなかった振りをして。


ルーク、ああいった現象を「狂い咲き」と言うんですよ。
時期尚早に貴方は咲き、そして春になる前に枯れていってしまった。
レムの塔以降、まるで花が散っていくかのように、さらさらと乖離していく貴方の姿。


満開に花開いたチレジオ回廊

天然の花の絨毯

風に舞う花弁たち

貴方と共に歩こうと、約束をした道。


私は今さら、貴方に狂い咲いている


古代イスパニア語って古代イタリア語のことだった気がした。
古語伊辞典は持ってなかったので、現代和伊と伊和辞典で「桜」を調べたところ
「ciliegio」読み方としては「チレッジョ(チリェッジォ)」かなーと打算をつけて、
でもそれだとアビスっぽくなかったので、母音を前面に押し出して「チレジオ」と表記しました。

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在宅でPCで何かする人。
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読書(SS含む)
自己紹介:
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仕事が立て込むと音信不通。仕事するか寝るかしかしなくなる。
たまに食う。

 

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