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哀しい、という感情を知る

隣の部屋の主が外へ出る。
決戦前夜。
それぞれが、それぞれの為に一人で過ごす夜。
「ルーク……」

あの時私は、「死んでください」と。
そうとしか言えなかった。
これ以外の言葉が私の口から発せられる可能性なんて今考えてもありえないだろう。
生きて帰ってきたルークに安堵したのも事実、けれど今、死に行こうとする彼を、止めようと思わないのも事実。

一人で過ごす、静かな夜。
時計の秒針の音、本のページをめくる音。
それが私の世界。

ふと時計を見れば日付は既に変わっている。
そろそろ寝ようかと思ったその時、ルークがどこかから帰ってきたのだろう、控えめな足音が聞こえる。
気配が、私の部屋のドアの前で止まる。
感謝の言葉でもかけてこようものなら、即刻部屋から退出願おう。
椅子に深く腰掛けノックを待つも、一向に叩かれる気配の無いドア。
「やれやれ、なんなんでしょうねぇ」
こちらから迎え入れるのも躊躇われ、私は深く息を吐き出す。
ドアの前から、気配が遠ざかっていく。
「いったい、なんだったんでしょうね……」
私はそのままベッドへと体を横たえた。

空が色を持たない時間に、私は目覚める。
聴こえて来た小さな歌。
譜歌とも違う、聴いたことの無いメロディー。
私はコートを羽織り、音のする場所へと向かう。

「ルーク」
首まで覆う、紅いコートを着込み、雪遊びに興じながら歌を口ずさむ幼子。
「ジェイド!?」
まるで真っ白な雪の中に落ちた一滴の血のように。
「こんな時間にこんな場所で、一体何がしたいんです?」
「あー……ほらさ、今って真っ白じゃん?」
答えになっていない疑問で終わる解答。
見渡せば、確かに真っ白とも言える。
一面が雪に覆われた、柱や木々まで雪化粧をしている広場。
「空がさ、真っ白でぜーんぶ真っ白でさ。綺麗じゃね?」
「確かに、空の白さは今の時間じゃないと見られませんし、ここまで雪に覆われて広がっている場所はここしかありませんね」
嬉しそうにうんうんと頷くルーク。私が呆れ果てていることに気付いていないのだろうか。
「それで、お子様は雪遊びがしたくなったと言うわけですか?近所迷惑も考えず歌を歌いながら」
「えー?歌ってたって言っても、口ずさむ程度だぜ?」
ジェイド地獄耳通り越してねぇか?と呟く声もしっかり耳に入ってきた。
しかし確かに、この澄んだ空気に音が響いたとしても、ホテルまで聴こえるはずはないのだが……
「……ところで先ほど歌っていた曲はなんですか?」
「ん?さっきの?作曲俺!作詞は……なんか昔読んだ本の内容」
「本?貴方でも本を読んだりするんですねぇ」
小馬鹿にした声に子供らしくむくれる。
「良い本だから読んでみてはいかがですかーってラムダスがしつこく勧めてきたからさ」
ラムダス、あぁ。ファブレ家の執事か。
「読んだらすっげーいい本だった!題名はもう忘れちまったんだけど……」
「もう一度、歌っていただけますか?」
「あー?まぁ別にいいけど……」



時は廻り そして還る

歌は融けて そして流る

風に乗って 貴方に

大気になって 傍に

寄せては帰す 波になって

過去へ 現在(いま)へ そして未来へ

私は貴方の元へ還る

いつかめぐり逢う為



まさに、大気へ解けていく音。
なにか、心が騒ぐような。
ルークが不安そうに私の顔を覗き込む。
「きちんと文章覚えてるわけじゃなかったから、俺流だけど……」
「素晴らしかったと…思いますよ。歌手に向いているかもしれませんね。」
私の言葉に、ぱっと表情が明るくなる。
「そこまで褒められると、逆にけなされてるような気もするけど……ありがとな、ジェイド!」
「いえいえ、本心です」
ルークの音素乖離は止まらない。明日、明後日の命と断言出来る。
本人も嫌というほどそれを理解しているのだろう。
乖離など起こらなければ、レプリカでなかったら、過酷な運命を背負わずに済んでいたら。
この子にはどんな未来があったのか。
どんな未来を掴み取っていたのか。
ふと、ルークがいつもの悲しむような笑顔になる。
「前にさ、ジェイド死が理解できない?って言ってただろ。あれさ、俺も……ジェイドとは違うかもしれないけど、理解出来ないんだ」
俯いて、言葉を探すように、首をかしげて。
「この歌詞の本さ、大気になって風になって、大好きな人のそばにいれるって。そんでいつか生まれ変わって、また会えるってそういう内容なんだ」
生まれ変わるなんて、夢だ。
「ジェイドは信じてくれないだろうけど、ずっとイオンが傍にいてくれるような気がするんだよ。見守ってくれてるような、気がさ」
そしてルークは空を仰ぎ見る。
「俺も、大気になるんだ。風になって会いに行く。だから……」
ルークが、手袋を外し、そっと私の頬に手を当てる。
「泣かないでくれよ……ジェイド…………」
「なにを……私が……」
頬に触れれば、確かに伝っていた涙。
「まぁ、オールドランドを2週位したらローレライでも脅して帰って来るからさ。俺って元々第七音素だけで出来てんだろ?だったらローレライがなんとかしてくれるだろうし。」
手を明るく照らし出した太陽に透かすルーク。まるで半透明のガラスのように、見えるはずの無い景色がその手のひらの向こうに見える。
「戻ってこれなかったら、ジェイドがなんとかしてくれよ」
「……むちゃを言う」
「えー?ジェイドだったらなんとか出来るだろ?」
そして笑うルーク。

その笑顔に、愛しいという感情を知る。
それは同時に、哀しいということであることも。


いまさら遅いことだけど、貴方が愛しい 哀しい


本の内容は、察した方もいらっしゃるかと思いますが、「ぼくの地球を守って」から捩ってます。
大好きなんだ、あの物語。歌詞の駄文さはお察し。凝って作ったらルークが考えてつくった歌詞に見えないだろうし。
ルークとジェイドは、恋人じゃない。互いに恋もしていない。
でも失うことがわかって、初めて愛おしかったんだと気付く。
愛しいということを知る、それは同時に哀しいという感情を知ること。
哀しいは切ないって意味も含んでいるから。
そんなジェイルク。

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読書(SS含む)
自己紹介:
完結済みを一気読み(見)するのが好きなため、オワコンに嵌る率が高い。
三大欲求の頂点が睡眠欲。春夏秋冬眠。
仕事が立て込むと音信不通。仕事するか寝るかしかしなくなる。
たまに食う。

 

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