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それでも望みを捨てることが出来ない。
私の世界は彼によって成り立っていたというのに。
ならば彼の居ないこの世界に何の意味があるというのだろう。


「何故……」
「知識を得る為。そして得た知識に見合う力を手に入れる為。」
膝を付く第四音素。
「何故我等を……」
「幾千年の時を大気として流れ、オールドラント隅々まで行き渡った音素。」
既に体を貫いている槍を、より強く、第四音素に突き刺す。
「その音素を集結させ、意識体にすることにより、情報を統合させる。」
第四音素が低い悲鳴を上げる。
「そしてその集合体を吸収することにより、情報と、その力が私のものになる。」
「何がお前を…そこまで……。」
「抗えなかった運命が、でしょうか?」

莫大な量の音素を集結させる。
あの男がその理論を考え着いた時には、ゾクリとしたものです。
あまりにも高等な理論なので、それを実行に移す為の実験が、どれほど大変であったでしょう。
まぁ、それもこの天才ディスト様にかかればお手の物でしたが。

「行きましょう。」
これで、第六音素までの音素集合体を吸収してしまったわけですか。
既に人ではなく、記憶の中の友でもなくなったこの男に、なぜ私は着いて行くのか。
知的興味、いいえ。
狂気へと落ちていくかつての友を、止めることが出来なかったから。
だったら、いっそのこと早く終わらせたい。
私の力が、まだ役に立つと言うのなら、ついて行き、終焉まで見届けたい。
「どうかしましたか?」
鮮血のように赤々とした眼はそこにはない。
赤黒く、より闇色へと変色した眼。
「何でもありませんよ。後はローレライだけですか?」
全ての音素集合体を吸収し切って、何が、何か変わるのでしょうか。
何も変わらなかった時、貴方は何をするのですか?
集合体を吸収するということは、オールドラントの音素が激減すること。
この作業が終わった時、本当に世界が終焉を迎えてしまうかもしれませんね。
「第七音素は後回しです。」
「何故です?」
「何か、今までに感じたことの無い音素の気配を感じます。」
新たな音素が在るということ?
「それの正体を突き止めてあわよくば吸収、ということですか。」
「えぇ、役に立つ音素ならいいのですが。」
「場所は?感じるのでしょう?」
はじめは色々な場所に赴き、少しずつ音素を集め、結晶化させていた作業も、集合体を吸収すればするほど、音素に敏感になったこの男の導きでペースは上がるばかり。
まぁ、私も既に人とは呼べない体になっているので疲れることはありませんが。
「貴方は、着いて来れないと思います。」
「何故!?」
男が地面を指差す。
「地核です。まぁ、どうしても着いてきたいのでしたら、一度音素乖離させた後に再構築してあげてもかまいませんが。」
怖いことをさらりと言う。
「きちんと魂がついてきてくれないと、再構築した時に死体が転がることになりますがね。どうします?」
「つつつ…ついていきますよ!」
「おや、面倒な作業が増えてしまいました。」
面倒で悪かったですね!面倒で!
「どのみち私がいないと、その新しい音素の結晶化できないじゃありませんか!」
今の私は例えるならローレライの剣。
私自体が、音素集結装置。
それをなす為に、私は私を構築する元素を捨てざるを得ませんでした。
レプリカとも呼べはしないんですけどね。
「それもそうです。ふむ、まぁ行きましょうか。」


全ての音素を取り込んで

それでも彼を取り戻す手段がないとすれば

本当にこの世界を壊してしまおうか



得るものが一つとしてなければ


ディストの口調って特徴的だと思ってたけど、案外ジェイドと被っててやり辛い。
つうか、音素吸収って、何者ですかここのジェイドは。
あんたもう眼鏡必要ないだろ。

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その瞬間私は確かに

死の定義。
心肺機能の停止。
魂の帰化。
だがしかし、そのどれにも当てはまることはなく。
その瞬間私は確かに心が死んでいくのを感じた。


覚えていることは、適当に挨拶を交わし、早々にタタル渓谷を去ったこと。
共に付いてきた、素直に喜べない表情の聖獣をチーグルの森へ帰したこと。
陛下にしばらくの休暇を申請し、その了承を得たこと。
休暇終了と共に、退役を願い出、受理を待たずにグランコクマを去ったこと。

あらゆる可能性を検討し、検証し、いずれもことごとく失敗した。
魂の分離は、人智が成し得ることが出来ないのは重々承知している。
だが、私は打ち込み、没頭し、足掻いている。

「……ジェイド。いい加減やすんだらどうです?この実験の検証は私だけで十分ですよ。」
「…………。」
グランコクマを去る前、私は獄中のディストを連れ出した。

肉体を構成する音素の解析はいとも容易かったと言うのに。
魂とは、それを構成するものとは?


ルーク  ルーク ルーク   ルーク  ル  ーク ルー ク   ル ーク   ルーク  ルーク ル  ーク ル ーク  ルーク ルーク ル ー   ク ルーク ルーク  ル ー ク   ル ーク ル ー ク ルーク  ルーク ルーク    ルーク ル ー ク ルーク ルーク ルー ク ルーク ル ーク  ルー ク  ル ーク ルー ク   ルー ク ルー  ク  ル ーク  ルーク ル ー ク ルー ク ルーク ル ーク ルーク ルー ク ルー ク ル ーク ルーク ルー ク ルーク ル ーク

専攻分野の違いから、貴重な意見が聞けることもある。利用価値がある。

音素が集結することにより、集合体は意思を持つ。
それは魂との定義付けが出来るのだろうか。


「クックックックック……」
「貴方は完全に狂っている……ジェイド…………。」

ビックバン、大爆発。
同存在であるレプリカ情報回収の為、音素乖離しレプリカを吸収。
オリジナルと再構成される現象。
レプリカの記憶はオリジナルに継承され存在が消滅する。



憎い

記憶は魂か。
記憶と魂の違いは。
記憶、それは元素の結合により構成された記憶媒体。
五感で感じ取った感覚は記憶媒体によって管理される。
ビックバンによって記憶が継承されるのはレプリカが元素を用いず、第七音素のみで構成されるから。
だが、ここで疑問が生じる。
元素と音素は似て非なるもの。
音素で構成されるものが、元素に変更される。
それは可能なのだろうか……
そもそも、レプリカは元素を用いずに作られる為、欠陥が多い。
音素の種類に対し元素の種類のほうが圧倒的に多いからだ。
いや、音素自体が元素の一端とするならば……


「そこの洟垂れディスト。」
「は、洟垂れとはなんですか!洟垂れとは!薔薇!薔薇のディスト!」
「そろそろ食料が尽きるはずです。それと、フォミニン、フォロシウム、セルフォーマ、パーロニウムの在庫が少なくなっています。」
「はいはい、わかりました。行ってきますよ!」
「文句を言っている割には嬉しそうですが。あぁあなたは昔から虐められるのが大好きな変態でしたね。」
「だぁれが!私は貴方がしょうっ……。戻るのに2日はかかると思いますから。」
「えぇ、よろしくお願いします。」
ケテルブルクのディストの研究所が、巧妙に隠された場所にあることが幸運だった。
ディストの脱獄を手引きした罪で、もちろん軍位は剥奪され、私も今では追われる身。
あくまで剥奪、ということは、陛下は退役を却下したということだろう。
わざわざ、国が汚名を被る必要性は無いというのに。それがあの方なりの友情の示し方なのだろうか。

カレンダーの無い研究所。
今は一体何日だろうか。
ともかく、今は魂の構成を……


夕日 怯 紅 光 白 純 緑 闇 焔 ルーク ルーク ルーク

記憶と魂が別のものであるならば、ビックバン現象により引き継がれるのは記憶のみ。
それは魂の消滅を意味するのか。


ふざけるな、認めない。

「ハハハハハハ……ハハ…」
ガツッガツッガツッガツッガツッガツッ
「今、戻りまし……ジェイド!やめなさい!手が血だらけじゃないですか!」
「クックックックック……ハッハッハ…ハハハ…………。」

完全同位は身体のみに現れる現象。
そこに魂の同位は見られない。
つまり、魂は元素によって構成されるものではない。
ならば何によって?
音素集合体が持つ意思は魂として……いや、これについての考察は終わっているはずだ。

魂と記憶の相違……
違う、それは他の検証が済んでからのはずだ。
何を、何を考えていた、何を研究していた、思い出せ、思い出せ、思い出せ。
ん?右手に包帯が巻かれている。
解いてみれば瘡蓋に覆わた拳。
どこかに打ち付けたのだろうか?
ふと視線を上げると壁に血痕を拭った後。
まさか……この私が記憶の欠如?
ありえない。
机に散らばった研究資料をかき集める。

ディストが買い出しに出てから何時間経ったのだろうか。


「そう……か…………。」
「どうかしたんですか?」
「魂の構成なんて、最初から解析出来るわけがない。」
完全同位体の性格、性質の完全同位は立証されない。
つまり、それは同位されるものではない。
完全同位体は振動数の違いも見られない。
記憶は音素により構成されるものではない。元素によって構成される。
しかしレプリカは音素のみで構築されている以上、記憶と呼べるものが存在しない。
「人智を超えている……今の知識だけではどうあがこうと結果はでない……。」
何も出来ない。何も。
研究所に転がる、数多の被験者とレプリカ。
全てが無駄だった。
「研究は終わりです。私は出て行きます。」
「ちょっとジェイド!?どういうことです!?」
「私には他に為すべきことが出来ました。付いてくるなら、勝手にどうぞ。」


魂の分離さえ出来れば、どうにか出来ると思っていた

私の望むルークは決して戻ってくることはない

ルークは、もうこの世界にはいない

その瞬間私は確かに死んだ

二度とルークに会えぬのならば


ならばこの世界に何の意味があるというのか。


これは酷い。ごめんなさい。
今回無駄にカラフル(?)になっていますが、ジェイドの狂い度だと思ってください。
台詞以外でしっかりと黒いのは本来(?)のジェイドです。
こんな説明入れなくていいくらい文章力があればいいのですが。
なんか、元素、音素、構築、定義を考えてたら私のほうが気が狂いそうでした。
ゲームの矛盾点に突っ込み入れて書こうとしちゃいけないというのがよくわかりました。

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希望を抱いて待つことすら

許されないのか
希望を抱いて待ち続けることすら
許してはもらえないのか


「お?なんだ、行くのか?」
出るのは溜息。幾度この馬鹿な親友のせいで溜息をつかされたことか。
「俺はてっきり行きませんよ、とか言い張ると思ってたんだがなぁ」
「流石にプライベートは尊重して頂けると思っていたのですが、私の思い違いでしたか?」
質問に答えたわけではなく、それでも私の言葉の意味を汲み取ったのか、あぁ、と洩らした後。
「お前の屋敷の中じゃないぞー?敷地の外だ」
えっへん、とでも言い出しそうに胸を張られても、それを埋める立場からすれば迷惑極まりないだけだ。
「外でもなんでも、宮殿外に、いや宮殿内であっても脱出路を作らないでください。どれだけ長いんですか」
「あぁ、俺がんばったもんなぁ、今回は」
「そんな無駄なことに努力するくらいなら、さっさと公務を片付けてください。そうしていただければ堂々と休みは取れるはずです」
「こういうのは、『脱出』するからこそ楽しいんじゃないか」
「不法侵入罪で今すぐ捕らえて差し上げましょうか?」
「おやおや、手厳しい」
馬鹿の相手は大臣たちに任せて、さっさと着替え、家を出るに限る。
「しかし、出発するにしては遅すぎやしないか?ガイなんか2日前に出てるぞ?」
「…………」
「アルビオールの貸し出し申請もしてないだろ?」
「…………」
「おーい、聞いてんのかー?」
「……行きませんよ」
はぁ?と間抜けな声が聞こえた。
「バチカルには、行きません」
「なんだ。やっぱり行かないのか。じゃあ何処に行くんだよ」
「さぁ?どこでしょう」
答える気は毛頭ない。
「ほら、さっさと宮殿に戻ってください。宮殿外に脱出路を作ったとなると、大臣たちがいつも以上にたぁいへんお冠でしょうし、機嫌取り頑張ってください」
口だけで笑みを作り、あえて自分が先に屋敷を出る。
「おいおい、黙っててくれるんじゃないのか?」
「誰がそんなつまらないことを」
後から付いてきた皇帝が玄関を出ると私は施錠をした。
辺りを見渡す。大方宮殿から屋敷裏の林道あたりまで地下通路を繋げたのだろう。
相当な長さであろう、地下通路を埋めるのは帰ってきたらガイに任せよう。
「ジェイド~、俺たち親友だろ?」
予想してなかったわけでもあるまい。
「その馬鹿な親友の馬鹿な行動の後始末には少々疲れ果てましたので」
今日のジェイドはいつも以上に手厳しいなぁ~と聞こえた声に無視を決め込んで、私は港へと足を進める。
背中越しに伝わる、眼差しにも気付かない振りをして。

カーティス家所有の船に揺られながら、いっそ誰もこなければいい。などと思った。
ガイが早くに出た理由は、多分バチカルで皆と合流する為。
ナタリア王女は成人の儀に参加せざるを得ない。
儀式の終了を待って夜のうちにアルビオールで目的地に着くだろう。
夕日がいやに眩しい。
色などに、特別な感動を覚えたことなんてなかったはずなのに。
この色だけは、この色だけは、私を動揺させる。
「……ー……ク……」
意図せず、意識せず、その名を呼べば。
蘇るのはあの泣きそうな笑顔。
満面の笑みなんて、見たことがあっただろうか。
アクゼリュスの崩落以降、行動を共にした彼が、心底、心から、笑っている姿を見たことがあっただろうか。
夕焼けは目に痛い。
目頭を押さえながら、漏れるのはやはり溜息一つ。
見てなんていられない。
目に 心に
痛すぎる。

カイツール軍港からは歩きで目的地に向かう。
私の強さを察知してか、襲い掛かってる魔物はいない。そんな馬鹿は盗賊くらいか。
途中、チーグルの森へ寄って小さな聖獣を連れて行く。
ソーサラーリングを貸し出して貰えなかった為、話しかけられている内容はわからないが、やけに嬉しそうなことは伝わってくる。
久々に会えば、元気に跳び回っていた聖獣は、痩せ、衰え、毛ヅヤも良くない。
この二年はそれほどまでに長かったのだろうか。
振り返る記憶の中には盲目に仕事に打ち込んでいたことしか、思い出されない。
平和条約が結ばれたことによる弊害、預言廃止後の混乱の鎮火、レプリカ保護法案。
すべきことの多さに、全てを忘れることが出来た。
いや、考えずに済んだ。
だがこの小さな聖獣は、二年を祈り、願うことのみに費やしてきたのだろう。
柔らかな風と共にセレニアの花の香りが広がる。
私は、その中に佇み続けた。

いつの間にかあたりは暗く、夜特有の静けさが広がっていた。
「よう!ジェイドの旦那!」
ガイの声と共に女性陣の再会を喜ぶ声が聞こえてくる。
少しの間、近況を話し合った。
彼の話をする者はいない。
話した瞬間に思い出になるとわかっているから、か。
おもむろにティアが大譜歌を紡ぎだす。
それだけで、あたりに第七音素が集結していくのが感じ取れる。
歌の終わりと共に、それもまた空気に融け拡散していく。
みな、何も言わず背を向ける。
無言で歩きながら。
祈るように、念じるように。

帰ってきなさい、帰ってきなさい、……帰ってきてくださいっ!!

「ルーク……!」

締め付けられる胸を押さえ、その名を呼んだ瞬間、莫大な量の第七音素が集結するのを感じ取った。
皆が振り返り、駆け寄っていく。
私はそれを見つめ、ゆっくりと近づいていく。
再会を喜ぶことよりも、幾度も思いつき、幾度も考えるのを放棄した事柄が浮かぶ。
コンタミネーション現象、ビックバン、起こりうる仮説。
決戦直前の状況、魂の定義、起こるべき現象。
考えるな、考えるな。
信じている、信じたい。
歩み寄り、お帰りなさいと言えば。
ただいまと返ってくる返事。
顔が同じであっても、声が同じであっても。
違和感が、
拭えない。

小さな聖獣が不思議そうに首を傾げる。
それが私に確信を与える。
この仮説だけは、間違っていて欲しかった。

魂の融合
ルークであり、アッシュであり。
ルークではなく、アッシュでもない。

『ルーク』


その瞬間に
いつか帰ってくると
待っていることで得られる希望を
砕かれた

希望を抱いて待つことすら許されない

『彼』は帰ってきてしまったのだから


その瞬間私は確かに死んだ


無駄に長かったですね。すいません。
実は逆行小説の序章だったりするんです。

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哀しい、という感情を知る

隣の部屋の主が外へ出る。
決戦前夜。
それぞれが、それぞれの為に一人で過ごす夜。
「ルーク……」

あの時私は、「死んでください」と。
そうとしか言えなかった。
これ以外の言葉が私の口から発せられる可能性なんて今考えてもありえないだろう。
生きて帰ってきたルークに安堵したのも事実、けれど今、死に行こうとする彼を、止めようと思わないのも事実。

一人で過ごす、静かな夜。
時計の秒針の音、本のページをめくる音。
それが私の世界。

ふと時計を見れば日付は既に変わっている。
そろそろ寝ようかと思ったその時、ルークがどこかから帰ってきたのだろう、控えめな足音が聞こえる。
気配が、私の部屋のドアの前で止まる。
感謝の言葉でもかけてこようものなら、即刻部屋から退出願おう。
椅子に深く腰掛けノックを待つも、一向に叩かれる気配の無いドア。
「やれやれ、なんなんでしょうねぇ」
こちらから迎え入れるのも躊躇われ、私は深く息を吐き出す。
ドアの前から、気配が遠ざかっていく。
「いったい、なんだったんでしょうね……」
私はそのままベッドへと体を横たえた。

空が色を持たない時間に、私は目覚める。
聴こえて来た小さな歌。
譜歌とも違う、聴いたことの無いメロディー。
私はコートを羽織り、音のする場所へと向かう。

「ルーク」
首まで覆う、紅いコートを着込み、雪遊びに興じながら歌を口ずさむ幼子。
「ジェイド!?」
まるで真っ白な雪の中に落ちた一滴の血のように。
「こんな時間にこんな場所で、一体何がしたいんです?」
「あー……ほらさ、今って真っ白じゃん?」
答えになっていない疑問で終わる解答。
見渡せば、確かに真っ白とも言える。
一面が雪に覆われた、柱や木々まで雪化粧をしている広場。
「空がさ、真っ白でぜーんぶ真っ白でさ。綺麗じゃね?」
「確かに、空の白さは今の時間じゃないと見られませんし、ここまで雪に覆われて広がっている場所はここしかありませんね」
嬉しそうにうんうんと頷くルーク。私が呆れ果てていることに気付いていないのだろうか。
「それで、お子様は雪遊びがしたくなったと言うわけですか?近所迷惑も考えず歌を歌いながら」
「えー?歌ってたって言っても、口ずさむ程度だぜ?」
ジェイド地獄耳通り越してねぇか?と呟く声もしっかり耳に入ってきた。
しかし確かに、この澄んだ空気に音が響いたとしても、ホテルまで聴こえるはずはないのだが……
「……ところで先ほど歌っていた曲はなんですか?」
「ん?さっきの?作曲俺!作詞は……なんか昔読んだ本の内容」
「本?貴方でも本を読んだりするんですねぇ」
小馬鹿にした声に子供らしくむくれる。
「良い本だから読んでみてはいかがですかーってラムダスがしつこく勧めてきたからさ」
ラムダス、あぁ。ファブレ家の執事か。
「読んだらすっげーいい本だった!題名はもう忘れちまったんだけど……」
「もう一度、歌っていただけますか?」
「あー?まぁ別にいいけど……」



時は廻り そして還る

歌は融けて そして流る

風に乗って 貴方に

大気になって 傍に

寄せては帰す 波になって

過去へ 現在(いま)へ そして未来へ

私は貴方の元へ還る

いつかめぐり逢う為



まさに、大気へ解けていく音。
なにか、心が騒ぐような。
ルークが不安そうに私の顔を覗き込む。
「きちんと文章覚えてるわけじゃなかったから、俺流だけど……」
「素晴らしかったと…思いますよ。歌手に向いているかもしれませんね。」
私の言葉に、ぱっと表情が明るくなる。
「そこまで褒められると、逆にけなされてるような気もするけど……ありがとな、ジェイド!」
「いえいえ、本心です」
ルークの音素乖離は止まらない。明日、明後日の命と断言出来る。
本人も嫌というほどそれを理解しているのだろう。
乖離など起こらなければ、レプリカでなかったら、過酷な運命を背負わずに済んでいたら。
この子にはどんな未来があったのか。
どんな未来を掴み取っていたのか。
ふと、ルークがいつもの悲しむような笑顔になる。
「前にさ、ジェイド死が理解できない?って言ってただろ。あれさ、俺も……ジェイドとは違うかもしれないけど、理解出来ないんだ」
俯いて、言葉を探すように、首をかしげて。
「この歌詞の本さ、大気になって風になって、大好きな人のそばにいれるって。そんでいつか生まれ変わって、また会えるってそういう内容なんだ」
生まれ変わるなんて、夢だ。
「ジェイドは信じてくれないだろうけど、ずっとイオンが傍にいてくれるような気がするんだよ。見守ってくれてるような、気がさ」
そしてルークは空を仰ぎ見る。
「俺も、大気になるんだ。風になって会いに行く。だから……」
ルークが、手袋を外し、そっと私の頬に手を当てる。
「泣かないでくれよ……ジェイド…………」
「なにを……私が……」
頬に触れれば、確かに伝っていた涙。
「まぁ、オールドランドを2週位したらローレライでも脅して帰って来るからさ。俺って元々第七音素だけで出来てんだろ?だったらローレライがなんとかしてくれるだろうし。」
手を明るく照らし出した太陽に透かすルーク。まるで半透明のガラスのように、見えるはずの無い景色がその手のひらの向こうに見える。
「戻ってこれなかったら、ジェイドがなんとかしてくれよ」
「……むちゃを言う」
「えー?ジェイドだったらなんとか出来るだろ?」
そして笑うルーク。

その笑顔に、愛しいという感情を知る。
それは同時に、哀しいということであることも。


いまさら遅いことだけど、貴方が愛しい 哀しい


本の内容は、察した方もいらっしゃるかと思いますが、「ぼくの地球を守って」から捩ってます。
大好きなんだ、あの物語。歌詞の駄文さはお察し。凝って作ったらルークが考えてつくった歌詞に見えないだろうし。
ルークとジェイドは、恋人じゃない。互いに恋もしていない。
でも失うことがわかって、初めて愛おしかったんだと気付く。
愛しいということを知る、それは同時に哀しいという感情を知ること。
哀しいは切ないって意味も含んでいるから。
そんなジェイルク。

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狂い咲き


グランコクマから徒歩で探索をしている時だった。
森を抜け、広がった草原に一本だけ木が生えていた。
「うっわぁー!すっげぇきれぇ!!」
走り出したルークに単独行動しないように、と言いながらついていくティア。
その二人の様子に苦笑いしながらやはり走ってついて行くガイ。
ナタリアとアニスは、イオン様と共にその木を見上げながら微笑み合い、彼らのそばに歩いて行く。
ゆっくりと、私もまた。
木の下まで着いた時には、ルークに遅いと怒られた。
早くに行かなければならないとは言われていないのだから怒られる筋合いはないのだが、7歳児に何を言っても無駄だろう。
「いやぁ、すいませんね。年なもので」
「まったくそうは見えねーけどな!」などと言いながらむくれ顔になる。
アクゼリュス前後、あれほど嫌気が刺したルークの言動も、今では苦笑いで済むくらいに受け止められる自分がいる。
まぁ、今の言葉など、褒められているようにしか取れないのだが。
実際このパーティーで最年長35歳ともなれば浮いて見えてもいいようなもの。
しかし、14歳前後に見える2歳児と17歳前後に見える7歳児がいるパーティーで外見年齢のことを言っても意味は無い。
いつの間にか花見をすると言う話になっていたらしく、アニスが腕まくりをしてる。
各地の崩落が始まり、降下作戦の真っ只中、ゆっくりする暇はないというのに。
本来ならばこの場所から南にはチーグルの森があったはず。それも今は魔界に堕ちている。
「綺麗だなー。なんて名前なんだろう?」
惚けた顔で満開に咲き誇る木を見上げるルーク。
誰もが、知っているはずの木をルークは知らない。
「チレジオ、ですよ」
ルークが、私が教えた木の名前を反芻する。
「春になると咲く花です。グランコクマにはチレジオ回廊と言われる並木道がありますよ」
「ずらーってこの木が並んでるんだろ?綺麗だろうなぁー」
想像し、目を輝かせるルーク。崩落が迫り、不安に包まれたこの世界であっても、ルークには美しい世界としてその目に映っているのだろう。
「そうですね、一面が淡い桃色で。綺麗だと思いますよ」
何度かその時期に通ったことはあっても、今みたいにゆっくりと花を眺めることなど、ましてや目を奪われることなどなかった。
「へー!見てみたいなぁ……」
「全てが終わって、春になったらいくらでも見れますよ」
楽しみだな、と笑うルーク。あぁ、これが本来の彼なんだと思う。
最近のルークは何か焦っているように、生き急いでいるように見えて。
それもそうか。師と仰ぐ者に捨てられ、自身の無知故にアクゼリュスを崩落させ、そして自分という存在を否定している。
そんな彼が、嬉しそうに笑っている。久しく見ていなかった気がするその微笑。
奪ったのは私達自身か。
「その時は、案内してあげましょう。都内の奥まった場所にありますからね」
「うわー、なんかジェイドが優しい……」
珍しいものでも見たかのように、びっくり顔をされる。
「失礼ですね、私はいつでも優しいじゃありませんか。」
にっこりと笑えば、眉を顰められて。
たまにはこういう時間もいいのかもしれない。と、ふと思った。
「ルーク!大佐!ご飯出来たよー!」
アニスの呼び掛けに勇んで駆け出すルーク。花より団子、という言葉も後で教えてあげましょうかね。

食事を終え、一息ついているとルークが近づいてきた。
「なぁなぁジェイド、なんで今春じゃないのに花咲いてるんだ?」
人にモノを教えるのは好きじゃないと言っておいたはずなのに、ここ最近のルークは何か疑問があればそれを全て私に聞いてくる。
知識を得ようとするようになったのだから、それは良い事だ。無下にも出来ない。
「時たま、こういった現象が起こることもあります。温度や日長、栄養の状態によってこうやって時期外れに咲いてしまう場合もあるんですよ」
「へー……。教えてくれてありがとうな、ジェイド!そういや、もうそろそろ出発だってさ」
「わかりました。」
私は立ち上がり、集まり始めた皆の元へ歩き出した。
ふと振り返れば、ルークがチレジオの木を見つめてる。
「お前、一人で頑張ってるんだな……」
洩れ聞こえた声に聞かなかった振りをして。


ルーク、ああいった現象を「狂い咲き」と言うんですよ。
時期尚早に貴方は咲き、そして春になる前に枯れていってしまった。
レムの塔以降、まるで花が散っていくかのように、さらさらと乖離していく貴方の姿。


満開に花開いたチレジオ回廊

天然の花の絨毯

風に舞う花弁たち

貴方と共に歩こうと、約束をした道。


私は今さら、貴方に狂い咲いている


古代イスパニア語って古代イタリア語のことだった気がした。
古語伊辞典は持ってなかったので、現代和伊と伊和辞典で「桜」を調べたところ
「ciliegio」読み方としては「チレッジョ(チリェッジォ)」かなーと打算をつけて、
でもそれだとアビスっぽくなかったので、母音を前面に押し出して「チレジオ」と表記しました。

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理人
性別:
非公開
職業:
在宅でPCで何かする人。
趣味:
読書(SS含む)
自己紹介:
完結済みを一気読み(見)するのが好きなため、オワコンに嵌る率が高い。
三大欲求の頂点が睡眠欲。春夏秋冬眠。
仕事が立て込むと音信不通。仕事するか寝るかしかしなくなる。
たまに食う。

 

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