時を計る。
貴方の全てを奪うその時を。
言葉だけでは足らない。
心だけでは埋まらない。
けれど、貴方の中にはまだ、獣はいない。
いつになるだろう、貴方がこの獣を飼う日は。
あの後、ただ、俺を抱きしめるだけだったジェイド。
俺の首筋に顔をうずめて、ただ、ゆっくりと息を吐き、息を継ぎ……
俺の呼吸をジェイドに合わせるとなんだか背中に響いていた胸の鼓動にまで、俺の鼓動が併さって。
まるで溶けてしまうんじゃないかって思った。
溶けて混ざって一つになる。
俺の心に浮かんだのは、ただただ、幸せだって想いだけだった。
ジェイドも同じだったら、俺たちは一つになってたってことになるのかな?
いつの間にか寝ちまったらしくて、ふと目を覚ましたらきちんと布団に入れられてた。
横でミュウが寝てるだけで、ジェイドの姿が無くて、少し……寂しかった。
それでも直ぐにうとうとして、寝付いちまったみたいだけど。
朝いつものように俺を起こしに来たメイドが、「自信作ですよ!」って嬉しそうに言いながら仕立て直した服をベットに置いた。
「普段着の他に3着も仕立て直したのでメイド総掛かりでした!」
大変だったはずなのに、凄く楽しそうだ。
徹夜だったのかな、ちょっと目が赤かった。
「ありがとうな。皆にも感謝してるって伝えてくれるか?」
「もちろん!ルーク様からのお礼のお言葉、しっかり皆に伝えます!みんな喜びますよ!」
「そうかな……?」
「そうですよ!皆ルーク様が大好きなんですから。それでは私はこれで失礼しますね。」
「あぁ、本当にありがとう。」
もう一度重ねて言うと、にっこりと笑ってから頭を下げて部屋を出て行った。
丁度入れ替わるようにノックがして、返事をするとジェイドだった。
今から着替える旨を伝えると、ジェイドは外で待つとか言い出した。
別に見られて困るようなもんでもないんだけど、それでも待つって言うから気にせず着替えることにした。
じっくり、あいつ等ががんばって仕立て直してくれた服を見ながら着替える。
アンダーは伸縮性のある物に変えたらしい。ぴったり体にフィットして、動きやすそうだ。
上着は裾が膝ちょい上まで短くなってる。
「んー?肩が少し余ってっか?まぁでもこれぐらいならいいか。そんでズボンは……」
手にとって広げたズボンは……
「…………こんなん穿けっかぁー!!!」
思わず地面に叩き付けたズボンはあのダボッとした部分が完全に無くなって、無残にも短パンになっちまってる。
「ご主人様!きっと似合うですの!」
ミュウが丁寧にズボンをはたいて、俺に渡そうとする。
「似合って堪るかっつーの!」
ぜってぇジェイドだ、あいつがメイドに言ったに決ってる……
「ルーク、集合時間が迫っています。着替えは終わりましたか?」
部屋の中に届くように少し大きめな、済ました声が聞こえてきて俺の拳はワナワナと震えた。
きっと、扉の前でニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてやがるんだ……
「くっそぉー!」
俺は覚悟を決めて、ズボンを、その後に靴を履いて勢いよく扉を開けた。
「てめぇ!ジェイド!!こん……」
文句を浴びせてやろうと思ったのに、こうなるように仕組んだ本人が呆気に取られた顔をしていて、その間抜けな面を見てたら言葉が出なくなった。
「ルーク……なんですかその格好……。」
「その格好って、お前がメイド達にこうするように言ったんじゃねぇのかよ?」
ドアを閉めて、自分の足を見る。
普段、ズボンを穿いているから日の光を浴びることが無かった上に、一ヶ月も寝込んでいたのもあって、足は生っ白く、筋肉が全然ついてない。
「まさか、そんな(勿体無い)こと私がする訳が……。」
ジェイドの言葉を遮って、ガイが俺を呼ぶ声がした。
「ルーク!おおおぉぉ!やっぱり似合うなルーク!!」
駆け寄って来たガイが俺の肩にポンと手を置きながらも、じっくり足元を見つめてくる。
やっぱりって……
「おーまーえーかぁー!」
言うと同時に振り上げた拳を、あっさり受け止めながら、なおもまじまじと足元を見てくる。
「不満か?」
「不満に決ってんだろが!」
ズボンも不満だし、殴ろうとしたのをあっさり止められたのも不満だし、お前のきょとんとした顔も不満だぁー!
「いいと思うんだがなぁ。」
「何がいいんだ!何が!」
「何って……そのほうが動きやすいだろ?俺は前からお前にあのズボンはやめた方がいいって言おうと思ってたんだよ。ああいう生地の多い服は風を受けるから俊敏に動けなくなるだろ?その点、それだったら布がすれることも無いし、風の抵抗も受けないし。お前言ってただろ、俺みたいに素早く動けるようになりたいってさ。」
「たしかに…言ったけど……。」
「本当は俺みたいにタイツ穿くのが一番いいんだ。でもお前はそれ嫌がりそうだしなぁ。ジェイドの旦那はズボンなんでしたっけ?」
ジェイドが無言で頷く。
「でもズボンの上からブーツを履いてるだろ?コートだって膝より上だから動くに邪魔じゃないし、戦闘に向いたデザインだぜ?」
「だったら、俺のズボンだって少し布を詰めればいいだけじゃねぇか!なんでこんながっつり短く……」
「それはそのズボンを仕立てた子達に聞いてくれよ。ルークの服を機能的に仕立て直すんだーって意気込んでた彼女達がどういうデザインがいいかって聞いてきたから俺は戦闘に適した服はどういう服かって教えただけだしなぁ……。」
「むぐぅ……」
徹夜してまでがんばってくれたメイド達が、そんなことまで考えて作ってくれていたかと思うと、文句も言えなくなる。
「ですが、この短さはどうかと思いますねぇ。服には肌を保護する役割もあるのですから……。」
「あぁ、そうだろうと思ってな!今のお前だったら足のサイズもナタリアと同じくらいかと思って予備のブーツ貰ってきたんだ、ほら!」
ガイが左手に抱えていた箱を開ける。
中には確かにいつもナタリアが履いているブーツが入っていた。
俺はそれを受け取って履いてみる。ブーツ自体履くのが初めてで四苦八苦したけど、サイズはぴったりだった。
「うーん、まぁこれでいいか……。」
「うん、見た目的にもいい感じじゃないか!おっと、そろそろ時間だな、それじゃあ行くとするか。」
俺は頷いて中庭から右に抜ける。母上に出発の挨拶をする為だ。
父上も母上もこっちに来てたって聞いたときはびっくりしたけど、俺を俺として受け入れてくれたから凄く嬉しかったな。
俺が挨拶をしている間、二人は玄関で待ってるってことで、一旦別れた。
「ルークは誤魔化せても、私は誤魔化せませんよ。」
剣呑な空気の中、玄関から出た途端、大佐が呟いた。
うっ……まぁ、大佐が気付かないわけ無いとは思っていたが……
「どんなデザインになるか知らなかったはずなのになんでブーツを用意出来たんでしょうねぇ。」
「ははははは……」
言葉で返そうとしても、旦那に勝てるわけも無い。
俺の口から出たのは空笑いだけだった。
「説明は手馴れたものでしたねぇ、毎回説明役を担っていたおかげでしょうか。」
「ははは……」
さっきより少し低くなる声になんだか冷や汗が出てくる。
「女性恐怖症の割りにしっかりとした説明をした辺り、そんなに短パンにしたかったんですか?」
「はは……」
なんていうか、見えるはずはないんだが、黒いオーラが立ち込めているのが見える気がする。
「そういえば、右手の具合はどうですか?」
いきなりそんな話の振り方をしないでくれ……妙に寒気がする……
丁度その時、天の助けかルークが現れた。
「意外と早かったですね。もっとゆっくり話しててもよかったのですが。」
「そうもいってらんねーだろ、出発の時間が近いし、それに母上がなんっつーか……」
二人が歩き始める。いつもなら直ぐにでもルークの隣に行きたいところだが……
「俺の格好みて、女の子みたいだーとか言い出してさぁ~。娘が欲しかったから嬉しいとか、女の子になればいいとか、困っちまって。」
(今は駄目だ……今ルークに近づいたら確実に俺の命はないっ……)
「別にいいと思いますよ、女になるのも。両方を経験することが出来るのはルークだけですよ?」
「いやだっつーの!」
はぁ……ルークぅ…………。
いや、しかし……歩くたびに上着の裾が捲れ、ちらりと短パンとブーツ間に白い足が見える。
これは……いい。すごくいいぞルーク!
空しさと男の性に揺られながら、ガイは二人の後ろをついて歩くのだった。
ルーク、俺だってお前を求め続けたんだ。
俺だって、俺なりに探し続けたんだ。
わかってる、これが負け戦だってことは重々承知してるさ。
だけど……
ルーク
男がジェイドの旦那だけだと思うなよ。
〆がガイですが、これはジェイルクです。
そして、ガイ入る隙間はないです。
泥沼三角は期待しないで下さい。
ごめんね、ガイ(゚∀゚)
久々のうpだー

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